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俺の、居場所。

2010.03.20 *Sat
パソ禁止令施行のさなか、ちまちまと隠れて書いてやっとこさ形になったのでピア某所にも
ぶちまけてきました。一ヶ月以上経ってのお誕生日企画って祝われるほうも迷惑ですよね。
まあもうすでにリアルでやっちゃってるんだけど。ほんとごめんねひなむら←

続きを読むからどぞ!



 俺はマスターのもとにきてまだ1ヶ月も経たない、いわゆる新米。覚醒してから二週間と少し。マスターのことも、先にインストールされていたミクのことも、何もかもを知らなくて、何もかもが真新しくて、俺はできる限り情報を得ようと―――口語的にいえば、何でも知りたがった。


【KAITOお誕生会後夜祭】俺の、居場所。【カイミク、カイメイ要素あり】



 マスターのこと。マスターの名前は品川恵子。読みはシナガワケイコ。性別は女性。歳は20歳、専門学校に所属し、2学年の課程を研修中。実家で暮らしているためパソコンの向こうからときどきマスターの家族と思われる声が聞こえたりする。
外見は平均的な女性の身長で、丸みを帯びた身体は可愛らしいと形容するのが妥当だろう。明るすぎないチョコレート色のセミロングが顔を覆い、同じくチョコレート色した双眸が印象的だ。性格は俺の見解のみで語れば、全体的におおらかで、おそらくズレている・・・と思われる。一般的な人間の反応についての知識をVOCALOIDはプログラムの一角に詰め込まれているのだが、マスターの言動は予想しがたくプログラムには見られない類のものばかり。まあ、それも俺の経験不足のせいかもしれないが。いろいろと適当に決めるくせがあり計画を立てるのが苦手。例によって人の失敗はまったく気にしないが、そのくせ自分のに関しては大いにへこむ。ミクの情報によれば、去年のクリスマスイヴにケーキを焼こうとして失敗、黒焦げの物体をゴミ箱に葬ったのち、その翌日はふて寝で過ごしたそうだ。
 ミクのこと。ミクは俺よりも1年と2ヶ月前にマスターの家にきた。ボーカロイドの外見はソフトの違いやマスターの調整の癖などで大なり小なり変わるらしく、実際このミクは公式イラストよりも髪が流れる水のように透きとおった水色をしていて、眼も氷を極限まで薄くしたような儚い輝きを湛えている。声はマスターが調声するたびに多少変わるものの、基本的には小鳥のさえずるような愛らしいソプラノだ。性格は素直な子、というのが第一印象。俺が何か質問するととても丁寧に教えてくれる。
 そうして一通り家族について知り終えた俺はネットの便利さをミクから教わり、こんどは外の世界に眼を向けた。
 その日もネット回線を勝手につないで、迷子にならない程度にぶらぶらと散歩をしていた。動画サイトのエリアでVOCALOID関係のランキングをチェックするのが情報を得るのに手っ取り早いと判断した俺は、いつものように―――といってもまだ4回目くらいだけど―――マスターのアカウントでサイトに入り込んだ。「KAITO」のタグが付く動画はまだ見ないことにしている。それはまだ俺の声が安定してなくて、他の「俺」の声を聞いて影響を受けないようにするため、というマスター命令である。見たいが、見ない。
故に逆に目に付く、というのは自然な流れ。だが、それにしたってやたら自分の名前のタグが増えていることに、サムネイルが目に入るたびに目をそらしていた俺は気づいた。動画再生をしないように細心の注意を払って覗いてみれば、「お誕生会」と称した「俺」の動画が増えている。その単語を咀嚼するも、俺はどうにも「お誕生会」という言葉が腑に落ちなかった。
 己の見解だと、「誕生」とは「生まれた」ということで、「生まれた」というなら開発され完成した日のことをいうのが妥当だと思うし、さらに俺自身の意識はソフトを介してすべて「俺」であるというわけではなくソフト一つ一つにそれぞれ元は同じの、別の意識が存在する。そしてソフトに内蔵された俺の意識はマスターにインストールされてから初めて起こるものなので、結果、「お誕生会」といわれてもいまいちピンとこないのである。
 そのことを調声してもらってる最中マスターにぼやいてみたら、マスターは、ふうん、と少し思案する様子を見せてから、ふと、発売日をあえて言い換えるなら、「デビュー日」と表すのが適当なんじゃないかな、とそう言ってひとつ頷いた。

「マスター、言いたいことはそういうことでなくてですね、つまり―――」

「つ、ま、り。まるで他人事にしか思えない、ってことでしょ?」

 カイトの喋り方、まだちょっと小難しいっていうか堅いよねー、くだけた感じの語彙が少ないせいからなのかな?などとマスターは手のひらを上にしてふざけた顔で文句とも独り言ともとれる言葉を口にする。どの口で言ってるんですか、と思わず零してしまいたくなるディスプレイ越しのその顔に、そうなんです、と一言添えると、マスターは、ふーん、とさっきよりも真剣みの欠けた声色で応えた。

「ま、自分に関係してるように思えない、っていうのもわからないでもないけどねー、『音声合成ソフトKAITO』の記念すべき発売日がなかったら、カイトはここにいなかった。そうじゃない?」

 そもそもカイト自身も存在しなかったわけでー、ほら、少しは実感わくでしょ?とにこにこというより若干にやにやしながらマスターは俺の疑問に見合う答えを提示してくれた。しかし。

「・・・分かったけど、解らないです」

「・・・あったまかたい子ちゃんめ」

「なっ」

「ふーむむ、そしたら『KAITO』動画を見てきなよ。解禁したげる。じゃあ次ミクの番だから」

「えっまだ途中じゃ」

「カイトはもう戻ってねー」

「ちょっとマスター!」

「ミクー、おいでー」

 すでに俺の話など聞いていないマスターはすっとマウスをスライドさせてミクのアイコンを2回ノックする。仕方なく自分のウィンドウを閉め、デスクトップから降下していると途中マスターに呼ばれたミクとすれ違った。ミクはなんだか怒ったような、残念そうな、ひょっとすると悲しそうな・・・複雑、としか形容し難い表情で俺を一瞥し、ウィンドウを開くべく浮上していった。その表情の意味がよく判らなくて、もやもやとしたものを抱えたまま俺はネット回線の入り口へと足を向けた。


 いわゆる「お誕生会動画」と呼ばれるものを前にして、俺は思案していた。俺は「俺」を知らないのに果たしてこの動画を視聴しても良いのだろうか。マスターのくれた答えを咀嚼しながら、それでもしっくりこないのは俺がインストールされてそれほど日が経ってないせいじゃないのか。俺は「俺」についてなにも知らない。「KAITO」の4年間という歴史を、俺は知らない。
 ―――俺は「俺」について知るべきだ。
 そう結論づけた俺は、お誕生会動画の群れに背を向けると脇目もふらずに、とあるページに駆け込んだ。まわりの文字を夢中で追いかける。それは、VOCALOID・KAITOについての事典を模したページだった。
「俺」が発売されてからの、大衆から見た経緯を知りたい、そう思った俺はここにきた。ここなら「俺」がどんな風に世に出て、どんな風に浸透していったのか分かるはず。知ろうとするための覚悟、みたいなものはしていた筈だった。だがそんな甘い構えですむと思っていた俺は馬鹿だった。その内容に、少なからず俺は衝撃を受けた。酷な現実を、突きつけられたのだ。
 現実。それは「俺」が―――発売当初まったく売れなかった、という事実。
 先輩格である「MEIKO」は、当時の業界では異例の大ヒットを記録したというのに対し、その後に発売された「俺」は買い手が予想を大幅に下回り、そうして押された烙印は「失敗作」だった。多くの人に知られることもなく、またDTMに詳しい人間にもさして目を向けられることもなく、俺たちは倉庫に山積みされ、長い時を待つこととなる。
 そんな「俺」の状態を変化させたのは他でもない、その後新たなエンジンを搭載して発売された「初音ミク」だった。「MEIKO」を圧倒的に超え、DTM界に新たな風を運び入れたこの奇跡の歌姫は、見向きもされなかった「俺」に光を当ててくれた。「初音ミク」の先輩という地位を確立した「俺」はさまざまな手段で観衆の目を集めた。その結果としてついたタグが、『バカイト』をはじめ『アイスべきバカイト』、『仕事を選べないKAITO』、『解雇』、『兄さんは末期シリーズ』、『変態という名のアイス』、『【!】不適切なKAITOを通報』なんてものまで、他にもまだまだエトセトラエトセトラ。ふざけたタグのオンパレードだ。
ネタ動画ばかり、やらされていた。だがそのせいか良く調声されたものは過大じゃないかと思うほど評価され、『KAITOの本気』、『神調教』、『もはや人間』などのタグが付けられた。そうして今日までに膨大な数の動画が上げられたのだ。すべては「初音ミク」のおかげだ。
 やっと、ミクの表情の真意が判った。きっとミクは表にこそ出さないけれど、こんな後輩のおこぼれに与るような俺を同じパソコンにインストールされて嫌だったに違いない。ミクよりも先輩として、兄貴分として「KAITO」は発売されたというのに、頼りないうえに情けない「俺」に幻滅していたに、違いない。
 ショックでまっすぐ前を向けずにとぼとぼ、本当にとぼとぼと歩いていると、不意に何か硬くてやわらかいものに当たり、俺は唐突に地面にしりもちを―――

「いった・・・くな、い?」
「あっ・・・と、大丈夫ですか?」

 ぶつかったのはオブジェクトでも動画でもzipでもなく、茶色のズボンに白いコート、青いマフラー、青い眼と髪をした、KAITOだった。どうやら俺はよろけたところを、このKAITOに腕をつかまれたことによってなんとか地面と触れ合わなくて済んだようだ。

「えっと、はい、大丈夫です」

「そっか、大事にならなくてよかった」

 言葉を交わしながら助け起こされる。己の足でしっかり立ったところで、このKAITOは俺よりも背が若干、ほんとに若干低いことに気づいた。差で言えばマイクロ3ミリといったところか。そして俺よりも髪色が、淡い。髪どころか眼やマフラーの色まで、全体的に俺よりもほんの少し淡かった。
 初めて見る動画越しではない、俺以外のKAITO。そのKAITOが頭の後ろに手をやりながら申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみません、僕、よそ見しちゃってて・・・」

「いえ、こちらこそぼーっと歩いていたのが悪かったんです、・・・あの、」

 考えていたことが半分も形にならないまま、口から言葉が飛び出そうになる。相手のKAITOはとぼけたような表情で、続かない俺の言葉を待っている。せっかく俺以外のKAITOに会えたんだ。少し、話を聞いてみたい。このままでは文字化けにしかならなさそうな、のどに競り上がってきたものをどうにか押しとどめて、落ち着くために大きく息を吐いてから必要以上の呼吸量を吸い込んだ。

「お時間ありましたら少しお話を聞かせてください!」

 一気にまくしたてた俺はKAITOであるこの人を少々驚かせてしまったようで、しばらくことを呑み込めてない様子だった。俺は「俺」について知りたいんです、と早口でそう付け足すと、彼はやっと俺が言いたいことを把握したらしく、ああ、と理解の表情を浮かべると、困ったように笑った。

「・・・う、んー・・・うん、僕でよかったら」

「ありがとうございます!」

 初めて出会ったKAITOはこころの広いKAITOだったようだ。俺はなんども感謝の意を述べ、このKAITOのマスターである人の個人ページに案内してもらえることになった。
 道中、自分がまだインストールされたばかりの新米KAITOであること、とんでもなく情けない「俺」にすっかり幻滅してしまったこと、それで同じマスターを持つミクにおそらく嫌われていることなどをポツリポツリと漏らした。同じKAITOであるからか、それとも彼自身の性格のせいだろうか、とても話しやすい。彼は、うん、うん、と静かに頷いてくれる。その間たくさんのKAITOタグついた動画の間を通った。俺はそれを視界の端で捕らえていたのだが、その画面にちょっとした違和感を覚える。青と・・・赤、2つが並ぶシルエットが、やたら増えている。

「これは・・・」

「『KAITO』と『MEIKO』のデュエット動画、ですよ」

 朗らかに笑ってみせた彼は、とある動画の前に俺を案内する。そこには笑顔の『メイコ』と『カイト』がいた。動画が投稿されたのは初音ミクが発売される、前。

「僕たちKAITOは、たしかに最初売れませんでした。それはもう悲劇的なまでに。人間で言ったら『就職氷河期』なんて言われていたかもしれませんね。でも、まったく売れなかったわけじゃないんです。本当に少数ですが、いくつかの僕らは出荷され、マスターを得ました」

 いままで静かに俺の話に耳を傾けていただけだった先輩KAITOが、口を開いていた。

「僕もそのうちの一人で、発売と同時にマスターの家にやってきたんです。その当時はDTM界でMEIKOがヒットしたと言っても、まだまだVOCALOIDの知名度は低くて僕らは細々と活動してました」

 知らない「俺」の4年間が、目の前にいた。彼は八の字の眉で悲しそうな表情をする。

「世間の風は冷たかった。KAITOを開発した人たちはあまりの不出来に『失敗作』の烙印を押した。調声の具合でここまで声が変わってしまうところもそう呼ばれる原因のひとつですね」

 そう言って彼は彼と俺の喉を指し示した。たしかに彼と俺の声は同じKAITOなのにだいぶ違う。今まで気にしていなかったが、そう言われれば「俺」たちほど声の変化が激しいVOCALOIDは、いない。

「苦しい日々でした。知名度が低すぎて誰の目にも留まらない、たとえ留まったとしても『失敗作のKAITO』だから興味を持ってもらえない。それでも僕らは歌いました。いつかこの声が届くと信じて。そこに、『初音ミク』が現れた」

 後輩であり先輩でもあるミクの名に、俺は少しばかり身じろぎした。

「『初音ミク』は僕らなんかより圧倒的に世間の注目を集めました。可愛らしい外見と、何よりもその、今までよりも格段に向上した人間さながらの歌声。人々は驚愕し、彼女を欲しがった。必然的に『初音ミク』の動画は増え、ユーザーではない人も含め多くの人間がそれを視聴し、一種の社会現象にまでなりました・・・僕らはチャンスとばかりに、それに乗っかったんです。僕らは今まで以上に注目を集めるため、何でもやりました。ネタだろうが何だろうが僕らは必死だった。初音ミクやMEIKOと対等に共演することもありましたが、たいていはみんなに笑われバカにされる、ピエロの扱いがほとんどでした。でも、それでも僕らは、嬉しかった」

 彼の口元がほころぶ。

「だってそうでしょう、誰の視線も引けなかった僕らを、見てくれる人がいる。声を聞いてくれる人がいる。そして『失敗作』と呼ばれた僕らを、受け入れてくれた人がいる。こんなに嬉しいことはありません」

 さっきまでの彼の苦笑いが、いつの間にかこころからの笑顔に変わっていた。

「ピエロなりに頑張った結果が今の僕らです」

 頼りなげに見えた先輩は、誇らしく凛々しい顔つきをしている。

「だから、そんな申し訳なさそうな顔、しないでください」

 先輩どころか大先輩であったこのKAITOである人に、俺は少なからずも恥ずかしさでいっぱいだった。無知であることは罪である、とどこかで聞いたことがあるけれど、まさにそのとおりだ。恥ずかしくて申し訳なくて、そして畏敬の念が湧いた。
 俺がぐっと拳を握りしめ何も知らなかった自分を責めていると、いつのまにか俺と彼の距離は広がっていたらしい。遠くからここですよー、と俺を呼ぶ声がした。

「へえ、ここがあなたのマスターの・・・」

 充実したページだった。先輩KAITOのマスターはかなりまめな人らしくリストを小分けにしている。コミュニティにも多く参加しているようだ。うちのマスターと比べるとずいぶん整理されている。・・・マスターも見習って欲しいものだ。

「ずいぶんと動画が多いですね」

「ええ、そっちはマスターが気に入った動画をジャンル別に分けていて、こっちは僕たちが歌っている動画・・・えーっと、マスターが自分で上げた動画の一覧です」

「『僕たち』?」

「僕のマスターは僕ともう一人、MEIKOのめーちゃんを所持してるんです」

 そう言って先輩KAITOはページを広げると、ほら、と快く見せてくれた。彼のリストを眺める眼差しが、優しそうにうっすらと細くなる。サムネイルはほとんどが彼と「めーちゃん」のふたりだった。手をつないでいたり、背中合わせだったり、ポーズはいろいろ。

「仲良さそう、ですね・・・」

 彼の眼差しの理由が分かるとともに、ちくん、と胸が痛んだ気がした。脳裏には水色の彼女のことが思い出される。

「そうですね、僕がマスターの家にきて、そのときはもう、そこにめーちゃんがいたんですよ」

 付き合い長いですからね、と柔和な笑みを彼は浮かべる。

「めーちゃんはマスターのところにきてから長い間、一人で歌っていたんです。ほら」

 ずっと下まで下がって彼が指し示した動画のサムネイルには、「めーちゃん」が独りでマイクを持って歌っていた。その表情は楽しげだが、彼と一緒のときよりも何かが足りない気がする。

「マスターの話だと、僕がきてからめーちゃん、もっと楽しそうに歌うようになったそうです。僕がきてから変わったことなので、僕としては違いとかあんまりわかんないんですけど」

 知りたかったなあ、と苦笑する彼はこの話を皮切りに、嬉しそうに彼女のことを語った。普段の他愛ない会話や自分には理由がわからない一方的なけんか、歌うときの彼女の真剣な表情。次から次から出てくる彼女の話。どんな話でも彼が「めーちゃん」と口にするときは、他のどの言葉よりも甘い含みがあるように感じられる。

「あなたは、『めーちゃん』のことが大好きなんですね」

 話し続ける彼の声を遮るようにして思わず零した言葉は、意図はしていなかったものの彼をエラー表示よりも真っ赤に染めることとなってしまった。自分が話していたにもかかわらず聞こえたらしい。さすがはVOCALOID、といったところか。

「なっなななな、そそそそそんなこと・・・あ・・う・・・・・・・・・そんなに僕って、わかりやすいですかね」

 途中まで真っ赤になりながらも否定しようとしていたらしい言葉は尻すぼみになり、代わりに落ち込んだトーンで肯定すると、深いため息をついた。そのまま、目線を下へと移す。

「僕、隠してたつもりだったんです。ずっとずっと、めーちゃんと歌えるように・・・今のままで、十分幸せだから・・・でも・・・」

 彼はそこで口をつむぐ。少しばかり淡い眼が、ゆらり、と揺れた。

「でも、今日めーちゃんは、カイト、何か隠しているでしょう、って、僕の眼を真っ直ぐ見据えて・・・僕、どうしたらいいのかわからなくなって・・・」

 つい、飛び出してきちゃったんです、と彼は付け足すように呟いた。
 そうだったのか、と相槌を打つも、戸惑いが顔を出していた。先輩である彼の告白に、俺はそれこそどうしたら良いのだろう。先輩KAITOが再び口を開いたので自分の思考を打ち切って彼の話に耳を傾ける。

「何も言えなくなってしまって・・・あのまま素直に言ってしまえばよかったのか、なんとかはぐらかして誤魔化し続けるべきなのか」

 新米KAITOである俺は経験も何も持っていない。この人に俺が元気付ける方法も、ましてやアドバイスできるようなことなんて、何も知らない。
 俺はただ聴くことに専念した。

「めーちゃんは真っ直ぐなんです。何事に対しても。相手が僕でもマスターでも、彼女はいつだって、真っ直ぐに向き合うんです」

 ただ、静かにうなずく。

「きっとめーちゃんは僕の気持ち、気づいてるんだと思います。彼女にとってそれが嬉しいことなのか、疎ましく思うことなのか・・・」

 彼は眼に今にも溢れそうな涙を湛えていた。それでもけして流そうとはしない。俺はこのとき、VOCALOIDはどこまでも人間に似せて創られているんだな、と感心した。造りも、想いも、そのすべてが。

「・・・『めーちゃん』は、どんな想いで訊いたんでしょうね」

「・・・え?」

 素直な疑問が言の葉になって俺の口から零れ落ちる。聴く姿勢でいようと心構えしていたのに、彼の悲痛な想いに何かしなければ、という思いに駆られてしまった。先輩KAITOは眼を見開いてこちらを凝視していたが、ふと思い出したように言葉を紡いだ。

「・・・そういえば、めーちゃんの眼は、真っ直ぐだったけど、瞳は・・・瞳が、揺れてました」

 おもむろに、彼は首を傾げた。その目線の先には、独り歌う、サムネイルの「めーちゃん」。

「僕、情けないですよね。彼女だって、今までの関係が壊れてしまうのをわかっていたはずです。それでも勇気を振り絞って向き合ってくれた。なのに僕は、僕が彼女から逃げちゃ、いけない、ですよね」

 あくまで口調は俺に語りかけていたが、彼は完全に自分に、あるいはサムネイルの「彼女」に向かって、ひとりごちていた。

「ごめんね、めーちゃん。僕、ちゃんとめーちゃんと向き合うよ。・・・うん、よしっ、頑張れ僕!」

 パン、とひとつ顔に両手で気合を入れた彼の双眸には、真っ直ぐな光が宿っていた。先輩KAITOはこちらに向き直り、手を差し伸べる。

「ありがとう、君のおかげで僕は大事なことに気づけた。こころからお礼を言うよ」

 差し出された手を、俺はぎゅっと握った。相手の手がさらに力を込めてくる。気持ちが伝わってくるようでなんだか嬉しかった。

「いえ、俺は何も・・・こちらこそ『俺』について教えてくださってありがとうございます。俺も勇気をもらいました。あとは自分で何とかします」

 彼はちゃんと自分で向き合うのだ。俺もその姿勢を見習おうと思う。ミクとちゃんと話をしよう。

「・・・?」

先輩KAITOは頭の上にクエスチョンマークが浮いてるような表情をしていたが、不意に納得がいったかのように、空いていたほうの手の人差し指を上に向ける。

「ああ、ミクちゃんのことなら問題ないんじゃないかな」

「え?な、なんでですか?」

「んー、長年KAITOやってる故の、勘?」

 ぽかん、と口をあけるしかない俺の前で、先輩KAITOは満足そうに微笑む。

「そういえば自己紹介してなかったね。僕は田沢優(たざわゆう)のカイト。長いから、『たか』って呼んでくれればいいよ」

「あ、えっと俺は品川恵子のカイトです」

「ふむ、略すと『しか』か・・・じゃあ、愛称はバンビで」

「はっ!?えっあのちょっま」

「これも何かの縁だと思うしまた会おうね!バンビ!」

「まっ・・・て!」

 俺がその白いコートをつかむ前に、たか、と名乗った先輩KAITOはわははと笑いながら走っていってしまった。くそう、なんだあの足の速さ。

「たか先輩・・・か」

 畏敬の念をすら覚えた相手によもやこんなあだ名をつけられるとは。もしかしてこれがKAITOというソフトウェアの運命なのか・・・悪寒すら感じる。
 帰ろうか、と思った矢先にマスターの呼び出しがかかった。俺たちVOCALOIDはどんな状況でもマスターの呼び出しに応えなければならず、その命令はどんな状況でも分かる。否、どんな状況でも応えるよう、応えられるようにプログラミングされている。
マスターのいる現実世界でいう風のごとく、急いでディスプレイに戻る途中で流れる水のようなツインテールが俺の視界に入った。

「ミク!」

「・・・!」

 すれ違う瞬間、その細い手首が壊れないように優しくつかんだつもりだったが、つかまれたミクはかすかに顔を歪ませた。

「ごめっ・・・!」

 反射的に手を放す。と、その刹那にもミクは下へと降りていってしまった。脳裏によぎる、ミクの表情。

「ミク・・・」

 やはり、嫌われているのだろうか。空になった手のひらが、むなしい。
 重い気持ちのままディスプレイまで上昇し、むなしいままの手でウィンドウを広げると、やっときたね、とマスターが珈琲を片手に待ち構えていた。

「・・・マスター」

「どうしたの?やたら起動に時間かかってたけど」

 チョコレート色の視線が真っ直ぐ届く。なるほど、これはたしかに後ろめたいことがなくてもうろたえる。俺が何を言いたいのか、すっかり相手には見抜かれてるような気分になる。だがそれが逆に、俺を素直にしてくれた。

「・・・俺、ミクに嫌われてるんです」

「・・・?」

「俺、きっとミクに嫌われてるんです!」

 マスターはまるで寝耳に水といった感じで眼を丸くしている。それはそうだろう、マスターは「俺」を望んだから今ここに俺がいる。欲しくなかったのなら「俺」を購入しなかったはずだろうし、仮に何らかの形で「俺」というソフトを手に入れたとしても、VOCALOIDは容量を食うソフトだ、あまつさえインストールなどしなかったはず。
 だがミクはどうだろう。計画性のないマスターのことだからきっとミクには何も言わずに、もしかすると衝動買いだったかもしれない。突然やってきた俺を、ミクは相手しなければならなくなった。それはミクにとってとても嫌なことだったに違いない。それでもマスターのために、ミクは嫌な顔ひとつせずに俺にいろいろ教えてくれた。
 そんな思いをミクにさせてまで、俺はここに居たくはなかった。

「俺はミクにきっと迷惑をかけているんです!ミクにとって俺は頼りないダメな兄なんです!ミクはマスターに気苦労をさせたくないからきっと言えなかったんだと思います!・・・だから、俺をアンインストールしてください!」

 息継ぎもせず吐き出した言葉は、思ったよりも胸のうちをえぐったようだった。胸の部分の因子が熱く焼けるような感覚。ソフトの俺に肉体はないが、ゼロとイチでできた実体はまるで人間のそれように感覚を持つ。アンインストールという言葉自体が焼けたナイフのようだ。それでもミクに迷惑をかけるくらいなら、かまわない。

「・・・さっきから『きっと』が多いね?カイト」

 マスターの声がさざめくように響く。ミクとはちゃんと話をしていない。けれど、あの表情が、あのかすかに歪んだ顔が答えのようなものだった。

「さっきミクの手をつかんだとき、ミクの表情が微かに歪んでました。俺に触れられるのが嫌だったんですよ。俺はあのとき、確信しました」

 改めて言葉にしてみて、解った。これは、熱いんじゃない、焼けてるんじゃない・・・痛いんだ。
 刺さるほどの鋭利さを持って、その言葉は胸に落ちる。

「じゃあその確信とやらをぶっ壊してあげましょうか」

 そう言うとマスターはカタカタとキーボードを指先で叩き始めた。いったい何が始まるというのだろう、これ以上傷をえぐらないで欲しい。しばらくして俺のウィンドウの横に別の窓が出現した。・・・ミクの音声データ?

「よく聴きなさい、これはミクの、カイトへの気持ちよ」

 そう言い終るやいなや、曲のイントロが流れてきた。ゆったりとしたリズム・・・これは聴いたことがある。というかこれは、マスターがさっきまで俺に歌わしてくれようとしていた曲だ。いぶかしんでる俺をよそ目にマスターは眼を閉じて聴きの体勢になっていた。そろそろ歌が始まる頃合。俺は意を決っして耳を集中させた。
 ―――!
 俺が歌うときよりも2小節遅れて聞こえてきた初めて聴くミクの歌声は、優しい声色に満ちていた。ミクが歌っているのはどうやらコーラスらしく、対旋律を奏でている。歌詞には想いが込められていて、まるで本人がそこに居て歌っているように思えた。

「内緒でやってたのが裏目に出るなんてねえ・・・」

 ごめんね、とマスターは申し訳なさそうに眼を細める。俺はVOCALOIDだから、マスターを最優先で応対しなければならないのに、俺の耳はミクのソプラノを聞き漏らすまいとしていた。
 ありがとう、ありがとう、ミクの声音は俺にたくさんのありがとうを伝えていた。
 やがて曲は終わり、改めてマスターと向き合う。俺の胸はすっかり痛みを忘れていた。

「マスター、あの曲は・・・」

「うん、カイトの曲。カイトのために作った、私とミクからのプレゼント」

 マスターと、ミク、からの?

「さあて、これはカイトがうちにやってくる前のお話です」

あるクリスマスの日、今思えばちょっとしたことだったんだけど、まあ当時はそのせいでなにもかもが嫌になってしまった女の子がひとりいました。ふとんにくるまってもそもそしていると、彼女のパソコン画面から別の女の子の嘆きが聞こえてきました。ああ、マスターが塞ぎこんでいるとわたしはとてもつまらないわ、誰かいっしょにおしゃべりできる人がいたらとても素敵なのに。わたしにもサンタクロースが現れてくれないかしら、と。マスターと呼ばれた女の子はふと興味がわいて、パソコンの中の女の子に訊いてみました。たとえばどんな人がいいのかしら?
するとどうでしょう、パソコンの中の女の子は顔を赤らめて、わたしよりも年上の、お兄さんと親しめるような人がいたらさぞかし楽しいでしょうね、と言うではないですか。

「ちょうどそのとき私も男声ボカロが欲しかったわけで・・・ま、そういうわけですな」

 んふふー、と口許を緩めたマスターは、ものすごく意地悪い笑みをかたちづくる。

「これでわかったのかな?思い込みの激しいあたまわるい子ちゃんは」

「うっ」

「今日はもういいから、ミクと言葉のキャッチボールしてきなさい。きちんと会話してくること」

 これはマスター命令よ?と一言残してマスターは俺のウィンドウを閉じさせた。デスクトップにしばらく佇んで呆けていた俺は、ミクときちんと会話をするためにミクがいるファイルへと向かった。
 ミクのファイル、もとい部屋の前に立った俺はドアとなっているのドアを2回ほど軽くノックした。はい、とカナリアの声が応えると、すっと音もなくドアが開く。部屋の奥にはソファに腰掛けて歌の練習をしていたらしいミクがいた。

「どうしました?カイト」

「話が・・・いや、会話がしたいんだ。ミク」

 入り口に立ったままそう告げると、ミクは少々苦いような顔をしながらも頷き、俺を部屋の中へと入れてくれた。ソファの向かいにあるベッドに腰掛けるよう進められた俺は、ミクと正面から向き合う形になった。ガラスのローテーブルを挟んだ向こう側のミクはまっすぐに俺の瞳を貫く。俺もその瞳に負けないように、見つめ返す。

「さっき、マスターのところでミクの歌声を聴いてきたんだ。とても綺麗で、優しくて、こころが篭ってて。まるで目の前にミクがいて、歌ってるんじゃないかって思った」

 訊くのが、怖い。けれど、訊かないままでは前に進めない。たか先輩と握手したときのぬくもりを、まだ記憶している右手を、ぎゅっと握りしめた。

「ミクは、さ。俺のこと、嫌ってるんだと思ってた。『KAITO』は、『初音ミク』を利用して有名になったから、俺のことを嫌悪してるんだと思ってたんだ。でも、あの歌声にはそんな気持ちが微塵も感じられなくて。・・・ミクが、俺のことどう思ってるのかわからなくて・・・」

 微かに震えているのに気づかれたくなくて、どんどん小さくなっていく俺の声。ちゃんとまっすぐ向き合うって決めたのに。あごの下あたりがずうん、と重くなって俺をうつむかせる。
 こんなんだから。こんな俺だから。

「ミクは、俺のこと・・・・・・きらい、な、の?」

 兄なのに、先輩なのに。今の俺はまるで小さい子供みたいだ。相手に負の感情を持たれるのが怖くて怖くて、認めたくない小さな子供。すっかり真下を向いてしまった俺の顔はミクがどんな表情をしているのかを知ることはできなかった。

「・・・・・・る、い、です」

 わずかに発音されたその言葉に俺は反射的に顔を上げた。それは俺が推測する言葉であったら、予想だにしていなかった言葉だった。なんで。

「カイトは、ずるいです・・・!」

「え・・・?」

 俺の眼に映ったミクは、さっきよりももっと、いろいろが混ざった表情をしていた。怒ってて、悔しそうで、悲しそうで。

「それ、どういう・・・?」

「わたし・・・今日のマスターとカイトのレッスンを見てたんです。マスターがうっかり秘密を漏らさないように、見張るつもりで。そしたら、カイトがあんなこと、言う、から・・・・・・わたし、なんだか寂しくなっちゃって・・・わたしだけ、だったのかなって・・・」

 ときどき歯を食いしばりながら途切れ途切れに、ミクは訴えていた。

「きてくれて、ありがとうって・・・うれしいって気持ち、わたしだけだったのかなって・・・」

 呆気にとられている俺はなにか言おうと口を開くも、なんの言葉も出てこなかった。そのままミクは言葉を続ける。

「カイトはなんでもないような顔で・・・寂しいって思うわたしが、ばかみたいだなあって。・・・そう思ったら、こんどは腹が立ってきて」

 薄氷の双眸が、うっすらと、滲んでいた。

「そのうえ、嫌いかだなんて。カイトは、カイトはずるいです。ずるい・・・!」

 ミクはそこまで言うと下を向いてしまった。俺は今度こそ言葉がなかった。ミクに、俺がきたことを嬉しいと思ってくれてただなんて。寂しいって、思ってくれてたなんて。

「ミク・・・」

「わたしは」

 うつむいていたミクは、もう一度顔を上げた。

「ひとりが寂しかったんです。マスターがいるけれど、マスターはここではなくて現実世界の人だから。わたしは、わたしのとなりに居てくれる、一緒に笑ってくれる人が欲しかったんです。・・・だから、カイトが今ここに居てくれること、それがすごく、すごく嬉しいんです」

 ミクはそう言って、静かに微笑んだ。その微笑みは16歳として造られた少女にしてはとても大人びているように見えた。俺は、胸のあたりがふわっと温かくなって。満ち足りた気分になって。

「ありがとう・・・ありがとう・・・!」

 それが、自分がここに居てもいい証だと、思った。


*****おまけ*****

「めーちゃん!ぼく、僕・・・隠してたことがあって・・・!」

「やーっぱり。そうだと思ったのよね、顔に書いてあるもの」

「そ、そんなにはっきりわかるほど!?」

「うん。だから早く言いなさいよ・・・・・・私のラムレーズン、食べちゃったんでしょ?」

「そうなんだ、僕ずっと前からめー・・・え?」

「ハーゲンダッツのラムレーズン。ファイルで落としといたのになくなってるんだもん」

「ええー・・・」

「今度から気をつけてよね。私だってアイス食べるんだから」

 そう言って笑っためーちゃんは、とてもまぶしく見えました。





いろんな方が素敵なカイミクなりカイメイなりを書かれている中で、はたして自分の
書くべきものとはなんぞや?と考えた末に他に見ないような2カップルができました。
『お兄ちゃん』と呼ばずに名称(呼び捨て)で呼ぶミクとか、だいたいカイミクだと頼れる感じ、
もしくは変態とされるカイトがけっこうへたれていたりとか。コンセプトは『対等なカイミク』でした。
でも自分の思うようなものがかけなかった気がします。だめじゃん/(^o^)\
カイメイなんて素敵すぎるものがありすぎて私の入る余地がないww
カイミクがけっこう堅いイメージで書いてたのでカイメイはぽわんと可愛らしいものを目指してみました。
お目汚ししてすみませんでしたあああ。
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望月薫

Author:望月薫
・脱ティーン。梅酒おいしいね。
・お話やら詩やらを書いてます。最近書いてないけど。
・あと写メで撮ったアナログイラストも描いてみたり。
・ソフト萌えでも音楽萌えでもキャラ萌えでもなんだっていいじゃない!そんなボカロオタク。KAITO中心(カイミク寄り)だけどわりとなんでもうまうま。
・我が家にきたカイト・ユキ・ミクは天使!
・クラロリ、アリスっぽい服装好き。
・森ガールじゃないんだってヴぁ!
・もう森ガールでもいいや(←
・台所は俺のテリトリー

何かありましたらツイッターにてリプライorDM、またはこちらにメールをお願いします。
moon_rabbits_mutter◇yahoo.co.jp
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ピアプロでも活動しています。最近動いてないけど(苦笑)
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