FC2ブログ

スポンサーサイト

--.--.-- *--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

櫻下浪漫宵舞

2010.03.22 *Mon
ちょっとずつ今まで部活で書いていたものを挙げてみようか企画第2弾。
今回の作品は、文化祭で部誌のテーマが『歴史』だったので明治・大正を担当させて頂いたもの。
このときは日本史の資料集片手に「あの戦争はいつ!?」「これってこの時代にもうあったっけえええ!?」
とへいこらしながら書いたなあ。
いかに短編といえど時代背景は調べないとね☆(ていうかちゃんと勉強s(殴

本編は続きを読むから、どぞ。
 今は昔の世は大正。
 石畳に馬車、夜闇に街燈、屋敷に女。
 煉瓦造りの大きな洋館に、たいそう美しく良い着物を纏った女がおりました。
 月光射す階上の窓辺、そこに据えられた椅子に座り、庭の櫻を見下ろす眼差しは儚げ。
 春爛漫。散りゆく櫻の向こうに、女は若き日の自分と、ある殿方の姿を見ていました。

   おうかろまんよいのまい
   ***櫻下浪漫宵舞***


「すぐ帰ってくるよ」

 そう言い残して行ってしまったあの人。なんの連絡もなく、あれからもう三十年経ってしまいました。しかし女の記憶の中の男はあの日のままなのです。戦場へと旅立つ日の、勇ましくも消えてしまいそうな背中が、女が見た男の最後の姿でした。
 窓の外に向けていた視線を外すと椅子から静かに立ち上がり、階段を、一段一段ゆっくり踏みしめて降りていく女は、足先が地につくたびにあの頃とは違う、自分の老いつつある体を実感していました。
 あの人がいたときは、あんなにも軽やかに体を動かせたのに。今では階段を降りることすらつらいと感じるなんて。
 最後の段を降り、廊下を歩いていると、通り過ぎた応接間の隅に置いてあるほこりを被って蓄音機が目に入りました。流行りものや新しいものが大好きだったお爺様の遺品。そして、出逢った日の思い出の品。
 そばを通りかかった使用人に、この蓄音機をこれから行く場所に運ぶようにことづけると、女は外へと続く大きな窓を開けました。
 雲もなく澄み渡るような夜空には、唯々そこにいるだけの月があるのみです。月の前を一粒の蒼い星が流れてゆきました。
 着物の裾に泥がつかないよう、細心の注意を払って庭に出ると、あたたかい闇が女を包みました。
 しっとりとした夜風が吹き抜けるそこは、手入れが行き届いていて、何ひとつ変わっていません。
 いいえ、変わってしまいました。戦争が始まってから得意先の仕事がうまくいかなくなり、同時にこちらも財政が厳しくなってしまったのです。そのおかげで女の家は今まで住んでいた家を手放さなければならなくなってしまいました。ですからこの庭は、あの頃を忠実に再現しながらもあの人と過ごした庭ではないのです。
 先ほどの使用人が蓄音機を運んで来ました。きれいにほこりを拭われたそれは、そっと針を落すとあの日と同じメロディを奏で始めました。その旋律は女の家から溢れて、隣家まで響いてきたそうです。
 あの人とはじめて踊った曲。美しい調べのワルツ。
 ずうっと長い間、聴くことを避けていました。ある種の願掛けのように、聴いてしまえば、もう逢えないような気がして。しかし今日、二階にある自分の部屋の窓辺から、元の家から植え替えた櫻を眺めて思ったのです。もう、あの人は帰ってこないのかもしれない。待ち続けたあの人は、すでにこの世にいないのかもしれない。
 それは今まで考えたこともないことでした。いえ、今までもずっと頭の片隅にその不安は揺らいでいたのですが、散っていく櫻の花びらを見たとたん胸を埋め尽くすほどに膨れ上がったのです。もはや女は信じる気力を失っていました。
 そんな女のこころを、責めるでもなく癒すでもなく、ほんの少しそよりと触れて流れるワルツは、懐かしいなどという言葉では表せられないほどこころに響いていました。
 女は櫻の下に立つと、ここではじめてあの人と踊った夜を思い出しました。自分が回ると、まるで世界が自分を中心に回っているようで。そしてあの人が手を引くと、あの人の世界に引き込まれるようで。自分達が一番幸せだと思えたひと時。
 気づけば曲にあわせてステップを踏んでいました。体の痛みも、重みも気にせず。只管、あの人を想って。
 櫻の花びらが、高く、高く、舞い上がりました。夜空の星々に向かって、手を伸ばすかのように。星々もまた、地上に向かって手を伸ばしました。櫻の花びらと出会うために。
 夢中で踊っていると、草を踏む音がワルツの間に聞こえました。女はそれに気づいて踊るのをやめましたが、夜闇で顔が見えません。女は闇に向かって、「どなた?」とたずねました。すると闇の中から、今まで待ち望んだ声が優しい微笑を浮かべて云いました。

「迎えに来たよ」

 ついに二人は、三十年越しに再び出逢うことができました。櫻の下の、ワルツの庭で。
スポンサーサイト

COMMENT

Comment Form


秘密にする
 

TRACKBACK

TrackBack List


プロフィール

望月薫

Author:望月薫
・脱ティーン。梅酒おいしいね。
・お話やら詩やらを書いてます。最近書いてないけど。
・あと写メで撮ったアナログイラストも描いてみたり。
・ソフト萌えでも音楽萌えでもキャラ萌えでもなんだっていいじゃない!そんなボカロオタク。KAITO中心(カイミク寄り)だけどわりとなんでもうまうま。
・我が家にきたカイト・ユキ・ミクは天使!
・クラロリ、アリスっぽい服装好き。
・森ガールじゃないんだってヴぁ!
・もう森ガールでもいいや(←
・台所は俺のテリトリー

何かありましたらツイッターにてリプライorDM、またはこちらにメールをお願いします。
moon_rabbits_mutter◇yahoo.co.jp
◇を@に変えて送信してくださいね。
ピアプロでも活動しています。最近動いてないけど(苦笑)
→詳しくはリンクへ。



最新記事



最新コメント



最新トラックバック



月別アーカイブ



カテゴリ

未分類 (6)
日記 (79)
ボカロ小説 (3)
オリジナル小説&詩 (5)
ばとん! (12)
イラスト (2)
ニコニコ支援! (3)
げーむ (5)
リンク関連 (4)
けいたい! (12)
考えてみたこと (5)
報告 (1)



検索フォーム



RSSリンクの表示



リンク

このブログをリンクに追加する



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



QRコード

QRコード



Copyright © ぽたり、ひとしずく All Rights Reserved.
テンプレート配布者: サリイ  ・・・  素材: ふるるか  
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。